アデライード協奏曲

ウィキポータル クラシック音楽
ポータル クラシック音楽
実際の作曲者マリウス・カサドシュと妻のルセット
モーツァルトはこの曲を作曲していない。

アデライード協奏曲』(Adélaïde Concerto)は、かつてヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したと吹聴された『ヴァイオリン協奏曲 ニ長調』のことである。通し番号をつけて『ヴァイオリン協奏曲第8番』と表記されることもあった。

モーツァルト作品目録において K. Anh. 294a という整理番号さえ与えられた[1]。しかしながら20世紀まで存在が知られていなかったことから、後にマリウス・カサドシュ贋作であったことが発覚した。モーツァルト作品目録の第6版においては、新たに K. Anh.C 14.05 という番号に変更されている。

概要

1933年に初めてピアノ・スコアで出版された時、「校訂者」のカサドシュは、10歳のモーツァルト少年による自筆譜からこの出版譜を編集したことや、譜面にはルイ15世の長女アデライード王女への献辞があることを報告した。

この真偽の疑わしい草稿は虫のいいことに、アルフレート・アインシュタインフリードリヒ・ブルーメといった音楽学者に決して閲覧することが許されず、ブルーメはカサドシュから、「自筆譜は2段の譜表によっており、そのうち上段は独奏パート(に加えてトゥッティ)が、下段はバスが記入されている」との説明を受けている。

カサドシュは、ペテンにかかった相手を確実におちょくることになるというのに、ブルーメによると「上段はニ長調で、下段はホ長調で記譜されている」とも報告したという[2]

来歴がないにもかかわらず、ブルーメはまんまとこの協奏曲に騙されてしまった。しかしアインシュタインは疑念を呈し、「“クライスラー風の”煙幕を張られた作品」と呼んだ[3]

その他の多くの研究者も、同様の疑問を表明したが、ようやく1977年になって、カサドシュが著作権論争の最中に、この怪しい「モーツァルト作品」が真作ではなく、自分の贋作であることを認めた。

『アデライード協奏曲』は、時に誤って兄アンリの作品と表記されることがある。おそらくはカサドシュ兄弟がゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルヨハン・クリスティアン・バッハなどの名義で多くの偽作を創り上げたからであろう。

ユーディ・メニューインヴァネッサ・メイなどが録音を残している。

構成

次の3楽章から構成される。

  • 第1楽章 アレグロ
    ニ長調、4分の4拍子協奏ソナタ形式
    
\relative c' {
 \key d \major
 \tempo "Allegro"
 d2.\f d16(e fis g) | a8.(fis16) a8.(fis16) d'4 r | b8.(ais16) b8.(cis16) d4. b8 | a8.(d16) a8.(d16) a4 r
}
  • 第2楽章 アダージョ
    イ長調、4分の2拍子(8分の4拍子)、協奏ソナタ形式。
  • 第3楽章 アレグロ
    ニ長調、4分の2拍子(8分の6拍子)、ロンド形式

脚注

  1. ^ "Anh." という略語は、「補遺」を意味するドイツ語 "Anhang" のことである。
  2. ^ 原則としてヴァイオリンは移調楽器ではないので、スコルダトゥーラを行う場合でない限り、上下の五線を異なる調性で記入する必要はない。
  3. ^ 名ヴァイオリニストのフリッツ・クライスラーが、例えば、ガエターノ・プニャーニジュゼッペ・タルティーニアントニオ・ヴィヴァルディの様式で作曲した作品は、初めはこれら過去の巨匠の真作として通用していたからである。

関連項目

  • モーツァルトの子守歌 - やはり専門家の判定ミスからモーツァルトの真作として通用してしまった偽作。
  • ヴァイオリン協奏曲第6番 (モーツァルト)、ヴァイオリン協奏曲第7番 (モーツァルト) - 共に、今日ではモーツァルトの作品としては疑問視されている作品。

参考資料

  • Biography of Marius Casadesus (source of information about copyright dispute above).
  • Friedrich Blume, "The Concertos: (1) Their Sources," in H.C. Robbins Landon and Donald Mitchell, eds., The Mozart Companion, NY: Norton, 1956, p. 220ff. ISBN 0-393-00499-6. (Source of other details on concerto. Published before Casadesus' revelation of his authorship.)
  • Stanley Sadie, The New Grove Mozart (NY: Norton, 1983), p. 206. ISBN 0-393-30084-6. (Source of catalogue numbers.)
  • Mozart: The Violin Concertos, Vol. 3. Mela Tenenbaum, violin; Czech Philharmonic Chamber Orchestra conducted by Richard Kapp. ESSAY Recordings, catalogue number CD-1072. (Source of information on tempos of movements.)
  • Dennis Pajot's article "KV Anh 294a, Adelaide Violin Concerto" at mozartforum.com. (Source of Einstein quote.)
典拠管理データベース ウィキデータを編集
  • MusicBrainz作品

第1番 変ロ長調 K. 207 - 第2番 ニ長調 K. 211 - 第3番 ト長調 K. 216『シュトラスブルク』 - 第4番 ニ長調 K. 218『軍隊』 - 第5番 イ長調 K. 219『トルコ風』 - アダージョ ホ長調 K. 261 - 第6番 変ホ長調 K. 268 (C 14.04) - 第7番 ニ長調 K. 271a (271i)『コルプ』 - (第8番)ニ長調 K. Anh.C 14.05『アデライード』 - ヴァイオリンとピアノのための協奏曲 ニ長調 K. Anh. 56 (315f) - ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K. 364

カテゴリ カテゴリ