アワコバイモ

アワコバイモ
愛媛県東温市 2024年4月中旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
: ユリ目 Liliales
: ユリ科 Liliaceae
: バイモ属 Fritillaria
: アワコバイモ F. muraiana
学名
Fritillaria muraiana Ohwi (1937)[1]
和名
アワコバイモ(阿波小貝母)[2]
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アワコバイモ(阿波小貝母、学名:Fritillaria muraiana)は、ユリ科バイモ属の小型の多年草[2][3][4][5]

特徴

は多数あり、白色。地下の鱗茎は径6-13mmで白色の球形になり、2個のほぼ半球形になる鱗片からなる。は高さは10-30cmになり、細く、直立する。は狭披針形から線形で5個あり、下部では2個対生し、長さ35-85mm、幅5-13mm、上部では3輪生し、長さ30-75mm、幅2-8mmになる。葉は緑色であるが、しばしば暗赤紫色になり、花後に緑色になる[6][7]

花期は3-4月。はつねに1個で、広鐘形で角張り、長さ12-20mm、径13-15mm、茎の先端に長さ5-15mmの花柄が曲がって斜め下向きにつく。花被片は6個あり、線状長楕円形から長楕円形で、長さ12-20mm、幅4-8mm、基部の4分の1から5分の2あたりに「肩」と呼ばれる張り出しがあり、先端は円形、全縁になり、花被片間に隙間があることが多い。花被片の外面に暗紫色の斑点模様があり、花被片内側の肩部分から先端に向かう蜜腺があり、緑褐色で、長さ4-10mmになる。雄蕊は6個あり、長さ3-6mm、葯は淡紫色から赤紫色になり、長さ5-8mm、花糸に小突起はない。雌蕊は長さ10-15mm、花柱は白色まれに淡紫色、小突起はなく、柱頭は深く3中裂する。果実蒴果で長さ10-28mm、径8-12mm、種子は長さ約2mm、幅約2mmになる。6月には地上部は枯れる。染色体数2n=24[3][5][6][7]

分布と生育環境

日本固有種[4]。四国の香川県徳島県愛媛県高知県に分布し[7]、山地の落葉樹林の林床、林縁に生育する[5][8]。まれに見られる植物である[6]

名前の由来

和名アワコバイモは、「阿波小貝母」の意で、阿波徳島県)産のコバイモの意味[2]、徳島県の高越山産の標本をもとに、植物学者の大井次三郎が命名した[9]

種小名(種形容語)muraiana は、この植物の発見者であり、タイプ標本の採集者である村井貞固(むらい さだかた、1885 – 1962)への献名である[9][10]。村井は、山形県出身で、当時、徳島県立農業学校(現在の徳島県立城西高等学校)の教諭であった[10]

分類

本州の東海地方西部、北陸地方西部から中国地方東部に分布するミノコバイモ Fritillaria japonica によく似ていて、花の形状や色などがそっくりである[5]。しかし、ミノコバイモの葯は黄白色であるのに対し、本種の葯は淡紫色から赤紫色になる点が異なる[6]

種の保全状況評価

絶滅危惧II類 (VU)環境省レッドリスト

  • 2000年レッドデータブックまでは絶滅危惧IB類(EN)に選定。

都道府県のレッドデータ、レッドリストの選定状況は次の通り[11]。徳島県-絶滅危惧II類(VU)、香川県-絶滅危惧II類(VU)、愛媛県-絶滅危惧II類(VU)、高知県-絶滅危惧IB類(EN)。

ギャラリー

  • 葉は花時に暗赤紫色になることがあり、花後に緑色になる。
    葉は花時に暗赤紫色になることがあり、花後に緑色になる。
  • 花の花被片間に隙間があることが多い。花被片基部の4分の1から5分の2あたりに「肩」と呼ばれる張り出しがある。
    花の花被片間に隙間があることが多い。花被片基部の4分の1から5分の2あたりに「肩」と呼ばれる張り出しがある。
  • 左の拡大。花被片間の隙間から紫色の葯が見える。
    左の拡大。花被片間の隙間から紫色の葯が見える。
  • 幼葉。
    幼葉。

トクシマコバイモ

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トクシマコバイモ Fritillaria × tokushimensis Akasawa, Katayama et Naito (2005) – アワコバイモとトサコバイモ Fritillaria shikokiana との自然交雑種。花の形は両親種の中間型である筒形と鐘形の中間であるが、花形に変異が大きく、時としてアワコバイモに似た狭鐘形になったり、あるいはトサコバイモに似た広筒形になる。開花時、葉は暗赤紫色になることがある。雑種名の形容語 tokushimensis は、「徳島産の」の意味で、この植物の発見地が徳島県であったことから命名された。和名も同様である。命名者は、元高知女子大学教授の赤澤時之、元高校教諭の片山泰雄および植物研究家の内藤登喜夫である。分布地は徳島県と高知県である[10][12]。国(環境省)でのレッドデータブック、レッドデータリストでの選定はないが、徳島県では絶滅危惧IB類(EN)に選定されている[13]

  • 徳島県名東郡 2024年4月中旬。トサコバイモに近い広筒形のもの。
    徳島県名東郡 2024年4月中旬。トサコバイモに近い広筒形のもの。
  • アワコバイモに近い狭鐘形のもの。
    アワコバイモに近い狭鐘形のもの。
  • 葯は紫色。
    葯は紫色。
  • 開花時、葉が暗赤紫色になる個体。
    開花時、葉が暗赤紫色になる個体。

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ アワコバイモ 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  2. ^ a b c 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.71
  3. ^ a b 田村実 (2015)「ユリ科バイモ属」『改訂新版 日本の野生植物 1』pp.169-171
  4. ^ a b 『日本の固有植物』pp.158-159
  5. ^ a b c d 高橋弘 (2015)「アワコバイモ」『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ(増補改訂新版)』p.581
  6. ^ a b c d 鳴橋直弘 (2020)「分類学的整理」『ユリ科コバイモ』pp.293-297
  7. ^ a b c 鳴橋直弘 (2020)「アワコバイモ」『ユリ科コバイモ』pp.375-386
  8. ^ アワコバイモ、愛媛県レッドデータブック2014
  9. ^ a b 大井次三郎「東亜植物資料15 Symbolae ad Floram AsiaeOrientals 15」『植物分類及植物地理 (Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第6巻第3号、植物分類地理学会、1937年、145-153頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001078858。 
  10. ^ a b c 鳴橋直弘 (2020)「学名の説明」『ユリ科コバイモ』pp.291-292
  11. ^ アワコバイモ、日本のレッドデータ検索システム、2024年5月5日閲覧
  12. ^ 鳴橋直弘 (2020)「トクシマコバイモ」『ユリ科コバイモ』pp.407-414
  13. ^ トクシマコバイモ、日本のレッドデータ検索システム、2024年5月5日閲覧

参考文献

  • 加藤雅啓・海老原淳編著『日本の固有植物』、2011年、東海大学出版会
  • 門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
  • 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 1』、2015年、平凡社
  • 矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ(増補改訂新版)』、2015年、山と溪谷社
  • 鳴橋直弘編著『ユリ科コバイモ』、2020年
  • 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  • 日本のレッドデータ検索システム
  • 大井次三郎「東亜植物資料15 Symbolae ad Floram AsiaeOrientals 15」『植物分類及植物地理 (Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第6巻第3号、植物分類地理学会、1937年、145-153頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001078858。 
  • アワコバイモ、愛媛県レッドデータブック2014


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