コーチェル・ビルカー

コーチェル・ビルカー
FRS
生誕 Fereydoun Derakhshani[1][2]
1978年(45 - 46歳)
イランの旗 イラン マリヴァン郡
研究分野
研究機関 ケンブリッジ大学
出身校 テヘラン大学 (BSc)
ノッティンガム大学 (PhD)
論文 Topics in Modern Algebraic Geometry (2004)
博士課程
指導教員
影響を
受けた人物
[4]
主な受賞歴 リーヴァーヒューム賞(英語版) (2010)
ムーア賞(英語版) (2016)
フィールズ賞 (2018)
子供 1
公式サイト
www.dpmms.cam.ac.uk/~cb496
プロジェクト:人物伝
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コーチェル・ビルカー FRS (Caucher Birkar, 1978年 - ) (クルド語: کۆچەر بیرکار/Koçer Bîrkar, 意味は「移民の数学者または数学を探究する人」; 本名は Fereydoun Derakhshani (ペルシア語: فریدون درخشانی))は、イギリスを本拠地とするイラン系クルド人の数学者で、ケンブリッジ大学の教授である[3][5]イランコルデスターン州マリヴァン郡出身。

ビルカーは現代双有理幾何学への重要な貢献者の一人である[6]。2010年、ビルカーは代数幾何学における貢献に対し、数学と統計学におけるリーヴァーヒューム賞(英語版)を受賞した[7]。 次に2016年、AMSジャーナル(2010)における「対数一般型多様体に対する極小モデルの存在」の論文(P. カッシーニ(イタリア語版)クリストファー・ハコンジェームズ・マッカーナンとの共著、通称頭文字をとって[BCHM]と言われる)に対して、AMSムーア賞(英語版)を授賞した[8]。そして2018年、ビルカーに、「ファノ多様体の境界性の証明と極小モデルプログラムへの貢献」に対して、フィールズ賞が授与された[9]

初期と教育

ビルカーはクルド民族として、イランのコルデスターン州のマリアヴァン郡に、自給自足の地で1978年生まれ、イラン・イラク戦争の中で育った[10]。ビルカーは、テヘラン大学で数学を専攻し、学士号を得た。ビルカーは2000年、国際数学コンペティションで銅賞を得[11]、直後に、大学での勉強を継続したまま、難民としてイギリスに移住し政治的亡命を求めた[12]。2001年から2004年まで、ビルカーはノッティンガム大学の博士課程の生徒だった[13]。2003年、ビルカーは最も有望な博士課程の学生として、ロンドン数学会によりセシル王旅行奨学金を受けた[14]。イギリスへの移民の都合上、ビルカーは名前を「コーチェル・ビルカー」に変えた。その意味するところは、クルド語で「移民の数学者または数学を探究する人」である[15]

研究と経歴

パオロ・カッシーニ(イタリア語版)クリストファー・ハコンジェームズ・マッカーナンと共に、ビルカーは対数一般型の多様体に対する対数フリップの存在、対数正則環の有限生成、極小モデルの存在を含む幾つもの予想を解決し、ヴャチェスラフ・ショクロフと、ハコン-マッカーナンの初期の仕事上に業績を構築していった[16]

対数正則特異点の解決において、ビルカーは極小モデルアバンダンス予想(英語版)の鍵となる場合とともに対数フリップの存在性を証明した[17]。(これはハコンとチェンヤン・シュー(英語版)により独立に証明された。)

異なる方向で、ビルカーは非負の小平次元の多様体上の多正則系により誘導される飯高ファイブレーションの有効性に対する飯高の昔からの問題を研究した。この問題は二つからなる。一つはフィブレーションの一般ファイバーに関連し、一つはフィブレーションの基底に関連する。ビルカーとチャンは、問題の後者について共同で解決し、それにより飯高の問題を小平次元ゼロの特殊な場合に本質的に還元した[18]

より近年の業績では、ビルカーはファノ多様体と線型系の特異点を研究した。ビルカーはショクロフの補集合の境界性に関する予想や、ファノ多様体の境界性のボリソフ-アレクシーエフ-ボリソフ予想といった幾つかの基本的な問題を証明した[19][20]。ビルカーはファノ多様体と極小モデル問題に対する貢献により、フィールズ賞を受賞した[9]。シモンズ財団より視聴可能な動画がある。ビルカーは、フィールズ賞は世界中の4万人のクルド人の「唇に微笑を添えた」という希望を表明した[21]。ビルカーのフィールズメダルは、彼に授与された同じ日に盗まれた[22]。2018年のICMの特別式典にて、ビルカーは代わりのメダルを贈られた[23]

ビルカーは正の標数の体上の双有理幾何学の分野でも活発に活動している。ビルカ-の業績は、ハコン-シューの業績と共に、少なくとも7の標数の体上の3次元多様体の極小モデルプログラムをほぼ完成するとこまで来ている[24]

賞と名誉

  • 2010 「代数幾何学における基本的な研究への顕著な貢献」に対して、数学と統計学におけるリーヴァーヒューム賞(英語版)[7][25]
  • 2010 パリ基礎数理科学賞[26]
  • 2016 アメリカ数学会ムーア賞(英語版)[27]
  • 2018 フィールズ賞[9]
  • 2019 サラハディーン大学アルビールの名誉博士号[28]

人物

  • 權業善範 曰く、ビルカーは、イタリアで開かれた大規模な代数幾何学の研究集会にて、昼休みに周りの研究者をフットサルに誘った。結果は、ビルカーのスーパーテクニカルプレイにより、ビルカーのチームの勝利だった[29]

出典

  1. ^ “جایزه معادل "نوبل ریاضی" به یک کرد ایرانی پناهنده به بریتانیا رسید” (Persian). VoA (2018年8月1日). 2019年8月7日閲覧。
  2. ^ “چرا مریم میرزاخانی و کوچر بیرکار مهاجرت کردند؟” (Persian). BBC (2018年8月3日). 2019年8月7日閲覧。
  3. ^ a b コーチェル・ビルカー - Mathematics Genealogy Project
  4. ^ August 4. “Caucher Birkar's family celebrates Fields Medal win | ICM News” (英語). 2019年3月10日閲覧。
  5. ^ コーチェル・ビルカーの出版物 - エルゼビアが提供するScopus文献データベースによる索引 (Paid subscription required要購読契約)
  6. ^ “Birkar Citation”. International Mathematical Union. International Mathematical Union. p. 2 (2018年). 2019年8月7日閲覧。
  7. ^ a b “Philip Leverhulme Prizes”. 2013年6月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月30日閲覧。
  8. ^ “American Mathematical Society”. www.ams.org. 2018年8月1日閲覧。
  9. ^ a b c “Former refugee among winners of Fields medal – the 'Nobel prize for maths'”. https://www.theguardian.com/science/2018/aug/01/former-refugee-among-winners-of-fields-medal-the-nobel-prize-for-maths 
  10. ^ “Quanta Magazine - Illuminating Science | Quanta Magazine”. Quanta Magazine. https://www.quantamagazine.org/caucher-birkar-who-fled-war-and-found-asylum-wins-fields-medal-20180801/ 2018年8月7日閲覧。 
  11. ^ Draganova, C. “IMC - International Mathematics Competition for University Students”. www.ucl.ac.uk. 2018年8月2日閲覧。
  12. ^ Fields medal: UK refugee wins 'biggest maths prize', by Paul Rincon, at BBC.co.uk; published August 1, 2018; retrieved August 1, 2018
  13. ^ Birkar, Caucher (2004). Topics in modern algebraic geometry (PDF). cam.ac.uk (PhD thesis). University of Nottingham. EThOS uk.bl.ethos.421475。
  14. ^ “Cecil King Travel Scholarship in Mathematics”. 2018年8月3日閲覧。
  15. ^ لندن, کیهان (2018年8月2日). “مدال "فیلدز" کوچر بیرکار ریاضیدان به سرقت رفت اما افتخارش برای ایرانیان ماندنی است” (ペルシア語). https://kayhan.london/fa/1397/05/11/%D9%85%D8%AF%D8%A7%D9%84-%D9%81%DB%8C%D9%84%D8%AF%D8%B2-%DA%A9%D9%88%DA%86%D8%B1-%D8%A8%DB%8C%D8%B1%DA%A9%D8%A7%D8%B1-%D8%B1%DB%8C%D8%A7%D8%B6%DB%8C%D8%AF%D8%A7%D9%86-%D8%A8%D9%87-%D8%B3 2018年8月7日閲覧。 
  16. ^ C. Birkar, P. Cascini, C. Hacon, J. McKernan Existence of minimal models for varieties of log general type, J. Amer. Math. Soc. 23 (2010), 405–468.
  17. ^ Birkar, Caucher (2012). “Existence of log canonical flips and a special LMMP”. Publications Mathématiques de l'IHÉS 115: 325–368. arXiv:1104.4981. doi:10.1007/s10240-012-0039-5. 
  18. ^ C. Birkar, D.-Q. Zhang, Effectivity of Iitaka fibrations and pluricanonical systems of polarized pairs. To appear in Pub. Math IHES.
  19. ^ C. Birkar, Anti-pluricanonical systems on Fano varieties. arXiv:1603.05765
  20. ^ C. Birkar, Singularities of linear systems and boundedness of Fano varieties. arXiv:1609.05543.
  21. ^ Castelvecchi, Davide (1 August 2018). “Number-theory prodigy among winners of most coveted prize in mathematics”. Nature 560 (7717): 152–153. Bibcode: 2018Natur.560..152C. doi:10.1038/d41586-018-05864-w. PMID 30087472. 
  22. ^ Phillips, Dom (2018年8月1日). “World's most prestigious maths medal is stolen alongside his wallet minutes after professor wins it”. The Guardian. 2019年8月7日閲覧。
  23. ^ "I'm more famous now than I would be", jokes Birkar, (August 4, 2018), http://www.icm2018.org/wp/2018/08/04/im-more-famous-now-than-i-would-be-jokes-birkar/ 
  24. ^ C. Birkar, Existence of flips and minimal models for 3-folds in char p. Annales scientifiques de l’ENS 49 (2016), 169-212.
  25. ^ “Caucher Birkar has been awarded 2010 Philip Leverhulme prize”. wordpress.com (2010年11月22日). 2018年8月1日閲覧。
  26. ^ “Archived copy”. 2014年3月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年6月1日閲覧。
  27. ^ “American Mathematical Society”. www.ams.org. 2018年8月2日閲覧。
  28. ^ Kurdistan24. “University in Kurdistan awards honorary doctorate to Fields Medal laureate” (英語). Kurdistan24. 2019年7月31日閲覧。
  29. ^ 權業善範『数学セミナー2019年1月号』日本評論社、2019年、18頁より引用

更なる読み物

  • Kevin Hartnett (1 August 2018), "An innovator who brings order to an infinitude of equations", Quanta Magazine
1930年代
1936年
1950年代
1950年
1954年
1958年
1960年代
1962年
1966年
1970年代
1970年
1974年
1978年
1980年代
1982年
1986年
1990年代
1990年
1994年
1998年
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