陽子

陽子(プロトン
組成 uud
粒子統計 フェルミ粒子
グループ バリオン
相互作用 弱い相互作用
強い相互作用
電磁相互作用
重力相互作用
反粒子 反陽子(p)
発見 アーネスト・ラザフォード (1917)[1]
記号 p
質量 1.672621898(21)×10−27 kg[2]
938.2720813(58) MeV/c2[3]
電荷 1.602176634×10−19 C(正確に)[4]
荷電半径 0.8751(61) fm[5]
磁気モーメント 1.4106067873(97)×10−26 J/T[6]
カラー 持たない
スピン 12
バリオン数 1
ストレンジネス 0
アイソスピン 12
超電荷 12
パリティ +1
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陽子ようし: : : : : proton)とは、原子核を構成する粒子のうち、正の電荷をもつ粒子である。英語名のままプロトンと呼ばれることも多い。陽子は電荷+1、スピン1/2のフェルミ粒子である。記号 p で表される。

陽子とともに中性子によって原子核は構成され、これらは核子と総称される。水素(軽水素、1H)の原子核は、1個の陽子のみから構成される。電子が離れてイオン化した水素イオン1H+[注釈 1]は陽子そのものであるため、化学の領域では水素イオンをプロトンと呼ぶことが多い。

化学的な水素の陽イオンの性質については「ヒドロン」を参照

原子核物理学素粒子物理学において、陽子はクォークが結びついた複合粒子であるハドロンに分類され、2個のアップクォークと1個のダウンクォークで構成されるバリオンである。ハドロンを分類するフレーバーは、バリオン数が1、ストレンジネスは0であり、アイソスピンは1/2、超電荷は1/2となる。バリオンの中では最も軽くて安定である。

原子核内で核子同士をまとめておく力については「パイ中間子」を参照

諸定数

電荷

陽子の電荷は、符号が正で大きさが電気素量 e に等しい。その値は

+ e = + 1.602   176   634 × 10 19   C {\displaystyle +e=+1.602~176~634\times 10^{-19}\ {\text{C}}} (正確に)

である(2018 CODATA推奨値[4])。

質量

陽子の質量 mp

m p = 1.672   621   923   69 ( 51 ) × 10 27   kg = 938.272   088   16 ( 29 )   MeV / c 2 {\displaystyle {\begin{aligned}m_{\text{p}}&=1.672\ 621\ 923\ 69(51)\times 10^{-27}\ {\text{kg}}\\&=938.272\ 088\ 16(29)\ {\text{MeV}}/c^{2}\end{aligned}}}

である(2018 CODATA推奨値[2][3])。電子の質量 me に対する比は

m p m e = 1836.152   673   43 ( 11 ) {\displaystyle {\frac {m_{\text{p}}}{m_{\text{e}}}}=1836.152\ 673\ 43(11)}

である(2018 CODATA推奨値[7])。

陽子の比電荷

e m p = 9.578   833   1560 ( 29 ) × 10 7   C   kg 1 {\displaystyle {\frac {e}{m_{\text{p}}}}=9.578\ 833\ 1560(29)\times 10^{7}\ {\text{C}}\ {\text{kg}}^{-1}}

である(2018 CODATA推奨値[8])。

コンプトン波長

陽子のコンプトン波長 λp

λ p = h m p c = 1.321   409   855   39 ( 40 ) × 10 15   m {\displaystyle \lambda _{\text{p}}={\frac {h}{m_{\text{p}}c}}=1.321\ 409\ 855\ 39(40)\times 10^{-15}\ {\text{m}}}

である(2018 CODATA推奨値[9])。

荷電半径

陽子のRMS荷電半径 rp

r p = 0.8414 ( 19 ) × 10 15   m {\displaystyle r_{\text{p}}=0.8414(19)\times 10^{-15}\ {\text{m}}}

である(2018 CODATA推奨値[5])。

磁気モーメント

陽子の磁気モーメント μp

μ p = 1.410   606   797   36 ( 60 ) × 10 26   J   T 1 {\displaystyle \mu _{\text{p}}=1.410\ 606\ 797\ 36(60)\times 10^{-26}\ {\text{J}}\ {\text{T}}^{-1}}

である(2018 CODATA推奨値[6])。核磁子 μN に対する比(異常磁気モーメント)は

μ p μ N = 2.792   847   344   63 ( 82 ) {\displaystyle {\frac {\mu _{\text{p}}}{\mu _{\text{N}}}}=2.792\ 847\ 344\ 63(82)}

である(2018 CODATA推奨値[10])。

歴史

陽子は1918年アーネスト・ラザフォードによって発見された。アルファ粒子窒素ガスに打ち込むと、水素の原子核固有の反応が検出された。窒素ガスは密閉状態にあるため、水素は窒素から分離されたに違いなく、水素の原子核は窒素に含まれていると推測した。これから、当時水素の原子核は電荷が1でありそれ以上分割することができないとされていたため、最も基本的な物質の構成要素であると結論付けた。ラザフォードはこの物質をギリシャ語の最初を表すプロトス(protos)からプロトン(proton英語発音: [ˈproutɑn])と名づけた。

陽子の崩壊

物理学の未解決問題
陽子の寿命は無限か有限か。有限だとすればどのくらいか。

標準模型においては、陽子の寿命は無限であるとされているが、大統一理論は、非常に長い時間をかけて崩壊することを予言している。

内側にセンサーを敷き詰めた大型のタンク内の大量の液体(に含まれる陽子)を対象として観測することで、これを検出できるかもしれないという提案があり、いくつかの実験が実施されている。日本においてはカミオカンデの目的の一つが陽子の崩壊を観測することであった。陽子の寿命が仮に 1033 年ならば、1033 個の陽子を集めれば1年に1個以上の陽子の崩壊が(崩壊したら確実に観測できるとして)観測できる確率が約63 %(≒1−1/e)であり[注釈 2]、2年間で1個以上の陽子の崩壊が観測できる確率が約87 %(≒1−1/e2)、3年間で1個以上の陽子の崩壊が観測できる確率が約95 %(≒1−1/e3)である[注釈 3]。2017年現在、この崩壊現象は観測されておらず、引き続くスーパーカミオカンデを含めた実験結果から陽子の寿命は少なくとも 1034 年(日本の命数法で100溝年)以上であると主張されている[11]。陽子崩壊は陽子内部のクォーク同士が 10−31 m 以内に接近したときに起きる現象であるが、これはクォークの大きさが 10−31 m 以下、または点状粒子であることを前提としている。クォーク半径が 10−31 m 以上であると、クォークの中心同士はそれ以上は接近できず、陽子崩壊は起こらない。

陽子崩壊でどういう粒子にどのくらいの確率で崩壊するかは大統一理論のモデルに依存するが、多くのモデルでは主要なモードとして次式のような陽電子中性パイ中間子、又は反ニュートリノ陽K中間子への崩壊を予言する。

  • p e + + π 0 {\displaystyle \mathrm {p} \to \mathrm {e} ^{+}+\pi ^{0}}
  • p ν ¯ + K + {\displaystyle \mathrm {p} \to {\bar {\nu }}+K^{+}}

脚注

[脚注の使い方]

注釈

  1. ^ 厳密には、水素イオンという語は、水素の陰イオン(ヒドリド)をも指す。
  2. ^ 2個陽子があったとして、1年で1/2の確率で崩壊するとして、1年で1つも崩壊しない確率は(1−1/2)2=1/4=25 %。3個陽子があり、1年で1/3の確率で崩壊するとしたら、1年で1つも崩壊しない確率は(1−1/3)3=8/27=約29.6 %。10個陽子があり、1年で1/10の確率で崩壊するとしたら、1年で1つも崩壊しない確率は(1−1/10)10=(9/10)10=約34.9 %。n個陽子があり、1年で1/nの確率で崩壊するとしたら、1年で1つも崩壊しない確率は(1−1/n)nである。nが十分に大きければ、その値は1/e(ネイピア数の逆数)に近づく。1年で少なくとも1つ陽子が崩壊する確率は前文の余事象なので1−1/eとなる。同様にn個陽子があり、1年で1/nの確率で崩壊するとしたら、2年3年で1つも崩壊しない確率は(1−1/n)2n,3n である。nが十分に大きければ、その値は1/(e2,e3)に近づく。
  3. ^ 統計的には95%以上の確率で起きうることが仮に起きない場合は、仮説を棄却して対立仮説(論理式でいう否定、このケースでは陽子の寿命は少なくとも1033 年よりは明らかに長い)を採択することがある。

出典

参考文献

  • K.A. Olive et al. (Particle Data Group) (2014). “2014 Review of Particle Physics”. Chin. Phys. C 38 (9). doi:10.1088/1674-1137/38/9/090001. 
  • Petrucci, R.H.; Harwood, W.S.; Herring, F.G. (2002). General Chemistry (8th ed.) 

関連項目

外部リンク

  • “Fundamental Physical Constants — Atomic and Nuclear Constants” (PDF). NIST. 2015年6月28日閲覧。
    • “CODATA Value: elementary charge”. NIST. 2020年4月9日閲覧。
    • “CODATA Value: proton mass”. NIST. 2020年4月9日閲覧。
    • “CODATA Value: proton mass energy equivalent in MeV”. NIST. 2020年4月9日閲覧。
    • “CODATA Value: proton-electron mass ratio”. NIST. 2020年4月9日閲覧。
    • “CODATA Value: proton charge to mass quotient”. NIST. 2020年4月9日閲覧。
    • “CODATA Value: proton Compton wave length”. NIST. 2020年4月9日閲覧。
    • “CODATA Value: proton rms charge radius”. NIST. 2020年4月9日閲覧。
    • “CODATA Value: proton magnetic moment”. NIST. 2020年4月9日閲覧。
    • “CODATA Value: proton magnetic moment to nuclear magneton ratio”. NIST. 2020年4月9日閲覧。
  • “pdgLive”. Particle Data Group. 2015年6月7日閲覧。
  • 日本大百科全書(ニッポニカ)『陽子』 - コトバンク
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